こんにちは!
無事に、修士論文を書き終え、審査にも通ったので学生最後の旅行にでも行こうかと思ったものの、
そんなことをしている余裕も時間もなかったバリューワークスSDの後藤です。
前回は、競技特性とスペースの重要性が起こす戦術の攻防について触れました。
今回は、それらを軸にしてルール変更がバスケットボールにおいてどのような変化をもたらしたかについて触れていきたいと思います。
これらのルールの変遷を知ることは、バスケットボールの本質を知るということで非常に有意義です。
卒業を迎える大学院でも学んだ知識を、皆様のお役に立てるよう記して行きたいと思います。
オフェンスで構成しなければならない優位性
今回の話をする前に、バスケットボールのオフェンスにおいて構成する必要がある優位性について説明したいと思います。
オフェンスでは、
・ショット期待値が高い場所からのフリーのショット
・ゴール近辺となるペイントエリアでのショット
この2つが目的となることは前回のコラムにてお伝えした通りです。
そして、それらの目的に即して効率的に得点を取るためには以下の優位性をチームで構成する必要があります。
①数的優位…アウトナンバーのこと。 2on1 3on2 など
②質的優位…ミスマッチのこと。 スピードや高さ、1on1の強さなど
③位置的優位…相手よりも有利な位置にいること。 ノーマークやクローズアウト、ギャップを生み出せるポジショニングを取れるか、など
これらをチームで構成する事ができれば、オフェンスは非常に得点を取りやすい状況を得ることができます。
この3つの優位性を念頭に置いて、解説を続けさせて頂きたいと思います。
バスケットボールにしかないショットクロックの概念
他のゴール型ボールゲームにはなく、バスケットボールにしかない概念は一体なんでしょうか。
その1つは、ショットクロックという時間の制限です。
現在、FIBAやNBAのルールでは基本的には24秒、
オフェンリバウンドやショットクロックが14秒を切ってからのファールに対しては14秒でのリセットとなっています。
このショットクロックという新しい概念は、バスケットボールにどのような影響をもたらしたのでしょうか。
①プレーの高速化
1つは、ゲーム展開の高速化、つまりオフェンスとディフェンスの切り替えが早くなりました。
1回の攻撃(ポゼッション)の中で時間制限されるということはつまり、なるべく素早く相手を崩し有利なスペースを支配して、ベストなショットを選択しなくてはいけないことを示します。
よって、必然的にバスケットボールはゴール型ボールゲームの中でもゲーム展開の速さと、強度の高い、身体能力も求められるような競技へと進化していきました。
②高速化に伴う有効で効率性の高い戦術の発達
この高速化に伴い、バスケットボールでは短い時間の中でもより有効で効率性の高い戦術を発展させていくことになりました。
その代表例がスクリーンです。
スクリーンの一番のメリットは、
1つのアクションで時間をかけずに高確率で味方をフリーにすることができる事です。
この戦術は、ディフェンスに対し絶対的なズレ(アメリカではセパレーションと表現されます)を生み出すため、ディフェンスの対応も非常に難しいものとなります。
これにより、数的優位や質的優位が起こりやすいマッチアップを作り出すことが可能となります。
バスケットボールにしかない3Pシュートの概念
そして、もう一つ重要な変化とは、3Pシュートの登場です。
3Pラインは、よりバスケットボールを攻撃的でエキサイティングな(テレビ受けの良い)スポーツへと発展させるために
NBA1979–80シーズン
で初めて登場しました。
このルールの導入当初は、1試合での平均試投数も2.8本とわずかであり、平均成功率も28%と低い水準にありました。
しかし、現在(2017–18)では1試合の平均試投数が29.0本と10倍以上も試投しており、
さらには成功率も平均で約36%にまで上昇するなど現代バスケットボールのオフェンスには欠かせない重要な構成要素へと進化を遂げました。
みなさんの印象としては、ステファン・カリーの登場などで記憶にも新しいことだと思います。
出典:https://shottracker.com/articles/the-3-point-revolution
一般的に高校生以上では、PPP(ポイント・パー・ポゼッション:1回の攻撃に対する得点の期待値)は
レイアップなどのゴール下の2Pシュート:成功率60%→PPPは1.2
ミドルレンジの2Pシュート:成功率30%→PPPは0.6
3Pシュート:成功率35%→PPPは1.05
フリースロー:成功率60〜70%→PPPは1.2〜1.4
と言われており、これらを見ても3Pが非常に有効な得点手段となっていることが分かると思います。
(これは参考意見ですが、私は期待値はあくまで「期待できる」数字として捉えており、「信用」まではしません。
これは選手それぞれの特性にも起因するところもありますがそれはまた今後書いていければと思います。)
この3Pシュートの登場・成長がバスケットボールにどのような変化をもたらしたかというと、
①ゴール下のシュートの次に効果的な得点する期待値の高い手段になった
②より簡単に、そして確実に大きなスペース(ギャップ・クローズアウト)を作り出すことが可能となった
の2点であり、これらはオフェンスに位置的優位を与えることとなります。
すなわち、前述した
2つの独自のルールが3つの優位性を作るためのオフェンス戦術・技術の向上へと導き、バスケットボールの固有の面白さを作り出したのです。
また、3つの優位性をより際だたせるために独自のルールが生まれたとも言えるでしょう。
3つの優位性を作り出すためのオフェンスのストーリー
以上の通り、オフェンスは3つの優位性を構築する事で、
確率が高くオープンなショットで得点する事ができます。
そして、その3つの優位性を作るためのストーリーをスペーシングとアクションによって構築していくことが
オフェンスを組み立てる
ということなのです。
このストーリーが
効果的で再現性のあるオフェンス
を生み出していきます。
バスケットボールのオフェンスデザインは論理性が高く、非常に面白いものです。
このコラムを通じて、皆様のオフェンスデザインを構築するストーリーを共に築く事ができましたら幸いです。
文:後藤 祥太
編集・校閲:赤津 誠一郎
編集後記
「期待値はあくまで「期待できる」数字として捉えており、『信用』まではしません。」
この言葉は、私がバスケットボールや仕事を指導する上でも大切にしている概念です。
期待値とは「確率を考慮した平均」と言われています。
出典:https://atarimae.biz/archives/14396
3PのPPPはとても高いように見えますが、あくまでも「平均」であることを忘れてはいけません。
「これは選手それぞれの特性にも起因するところもありますが」
コーチの役割は「NBAではこうだから」「世界基準がこうだから」といったものではなく、
目の前の選手達がどのような競技で、どの段階でどのような対戦相手に成果を残そうとしているのかを考慮する必要があります。
何事にも「本質」から捉え「手段」に踊らされ無いことが大切です。
「確率」よりも「確実性(再現性)」を高めることが日々の仕事では大切な事です。
仕事やスポーツはギャンブルではないわけですから。
3Pを求める前に、本当にレイアップショットを試合中に60%決めきれていますか?
このコラムでは、バスケットボールの本質をお届けするでコーチの共通認識を増やし、より日本の指導力アップにつながるような情報をお届けできればと思います。
「でもバスケの本質ってこうでしょ!?」
「そうなんだよね。だから子供達にはこんなプランを考えているんだ」
「なるほどね」
そんな認め合いが沢山生まれたらとてもうれしいなと思います。
赤津 誠一郎
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